PHASE_2 よみがえった光」

  身体(筋肉細胞)も、頭(脳細胞)も、使わなかった時間が長ければ長い程、おとろえる。
  だが、ただ使えば良いというものではない。
  知恵をしぼり モノを考えないのであれば、勉強だろうと、例えゲームだろうと、無意味ゼロ
  いや、無意味な どころか、人を腐らせているのだから、害悪マイナスとすら言えよう。

  その帰還は、唐突だった。
  「!? 嵯峨さん!?」
  何を するでもなく、格納庫へ足を向けた僕は、そこに、居る筈のない人を見る。
  上段から見下ろせる位置に、嵯峨さんが立っていた。
  だけど、こちらを振り仰いだだけで、返事が無い。
  下段へ向けて、ひょいと身を躍らせかけた僕だったが、寸での所で ここが惑星上――つまり重力下――である事を思い出して、踏み止まる。
  危ない危ない……こんな所で滑落死なんて、間抜けにも程がある。
  リフトへ走って、急いで格納庫下段へ降り、嵯峨さんに駆け寄る。
  「気が付きませんでしたよ、何時いつ 戻ったんですか?」
  「たった今だ」
  「……?」
  その反応に、即座に違和感を覚える。
  その姿も声も、確かに嵯峨さん……の筈なのだが、何かが。
  いや、疲れているのかな、と この時は思い直したんだけれど、見ていれば見ているだけ、このかすかな違和感は蓄積していく事になった。

  嵯峨さんが戻った事で、G・サジタリアスはカロンを離れ、再び宇宙へ出た。
  「すまない、聞きたい事があるんだけど、捕まらないんだ。父さんを探して来てくれないかな」
  艦橋で何事か、手の離せなくなっていた先輩に頼まれて、居合わせた志賀さんと二人で、嵯峨さんを探す事になった。
  だけど何故か、探せど探せど、嵯峨さんの姿は見つからなかった。
  「おっかしいなあ、どっかに隠れてんのか?」
  「嵯峨さんが そんな事をする意味は無いと思いますが……」
  「わ、判ってるけどよ、居そうなトコにも居ねえしさ」
  いくら広い艦内といっても、限度がある。
  これだけ探しても見つからないなんて、有り得ない筈なのだが。
  一旦 手分けをする事にしたりして、こそこそと秘匿区画も見に行ったが、やはり居ない。
  もしや、また ふらっと出掛けたのかと、格納庫へも足を運んだのだが、そもそも専用機であるコスモ・シャドウは行方不明、その他の機体も、欠けた物は無かった。
  二人して困り果てていた所へ、通り掛かったのは、シャマだった。
  「疲れた顔して、何をしてるんだ?」
  「シャマ。嵯峨さんを探してるんだけど、見つからなくて」
  「? 嵯峨なら、ついさっき、奥へ行ったが……?」
  「!?」
  「ありがとう!」
  自分の背後を指すシャマに、一瞬 志賀さんと顔を見合わせ、お礼も そこそこに駆け出す僕達。
  シャマの指し示した先は、左右と中央、三本走る居住区通路の、更に外側にある外郭通路へ通じていた。
  そこは、装甲板の真下に位置し、壁の向こうは宇宙空間、通常時には立ち入る理由は無い筈の場所だった。
  「こんな所に……?」
  「あっ、おっさん! 何してんだ?」
  全く人けの無い通路を進むと、ようやくに、探し回った背中を発見する。
  「嵯峨さん? ……!? それ、ボマ―・ホーンのミサイルじゃ……」
  「…………」
  やっと見つけた嵯峨さんは、何かを手にして、いや、小脇に抱えていた。
  見覚えがあると思って記憶を手繰たぐると、それは、ボマ―・ホーンのミサイル ポッドに搭載される、マイクロ ミサイルだと思い出す。
  ちらと振り返りはしたが、僕等の問い掛けに何も返さず、再び背を向ける嵯峨さん。
  それとは別に、さっきからわずかだが、機械音のようなものが聞こえていた。
  気のせいかも知れなかったが。
  「嵯峨さん、どうしたって言うんです? 何だか帰って来てから おかしいですよ」
  「そんな事は無い」
  「いや、おかしいぜ。どう考えても。いつもなら――」
  「しつこいぞ」
  「違う……。あんた、おっさんじゃあ ないなッ!?」
  「嵯峨、さん?」
  「嵯峨――光政、か。確かに、われ、嵯峨 光政だ。ではなく、な」
  嵯峨さんの姿をした、だけど、“嵯峨さんではない何者か”が、振り返る。
  その表情は、まるで鉄の仮面を被っているかの様な、一種、恐怖さえ覚えそうな程の無表情。
  「君達も、脱出したまえ。とがりしフネは、今、無にする」
  それだけ言うと、生身のまま艦の外へ飛び出そうというのか、嵯峨さんの偽者は躊躇ためらいも無く、手にした弾頭を壁面に投げつけ、破壊した。
  「うわあッ!?」
  爆風が吹き付けてきたのも一瞬、次には急激に空気が漏れ出し、気圧が一気に下がっていく。
  状況を察知した緊急システムが作動し、天井から、ガムで作った風船のようなものが幾つも吹き出し、破損部分へ吸い寄せられてゆく。
  そこへ――
  「そう うまい事、とん屋がおろすかよッ!!」
  「ぬ……っ」
  ガム風船の間を すり抜け、偽物に体当たりを掛けたのは、誰あろう、嵯峨さんだった。
  二人の嵯峨さんの向こうで、ガム風船が弾け、破損部分をふさいで硬化していく。
  「こンの野郎、やりたい放題やってくれやがって……。戻って来るのに時間が掛かっちまったじゃねぇか!」
  「嵯峨さん!」
  辛うじて空気のろうしゅつが止まった通路で、嵯峨さん同士がにらみ合う。
  傍から見ただけでは、それは鏡に映したかの様に、寸分たがわぬ写し身に見えたが……僕には どちらが本当の嵯峨さんかが、判った。
  「お、おっさんが、二人居るッ!?」
  「違う……違いますよ、志賀さん! 片方は――」
  僕は、ようやく理解した。
  ずっと感じていた違和感の正体が、今はっきりと、あるイメージと重なった。
  「反存在……!」
  「そういうこった、レイジ。野郎……ッ、ちょろまかしい事してくれるじゃねぇか。俺に化けるとはよ!」
  「貴様には もはや、我に抗する力は残されては いまい。今更 何をしに来た?」
  える嵯峨さんに、偽物は あくまでも冷徹だった。
  「えっ」
  「ちぃと悪役くせぇけどよ。“黙って帰すと思ってんのか?”ってなモンよ」
  「どこまでも愚かな。今の貴様に、何が出来る」
  (レイジ! “アレ”、持ってるか!?)
  「!?」
  こっちに水を向けられるとは予想だにしていなかった僕は、一瞬 狼狽うろたえた後、脳細胞をフル活動させて、嵯峨さんの求める“アレ”が何なのかを考えた。
  可能性のありそうな物から、全く関係の無さそうな物まで、コンマ何秒かの間に幾つも脳裏に思い浮かべる。
  結局、正解に辿り着いた実感を得られないまま、ほぼ無意識の内に、僕は腰の後ろの専用ホルダーにおさめていた を、嵯峨さんに向けて 力一杯 投げつけた。
  「おっしゃ! 正解だ、レイジ!」
  嵯峨さんの手に、吸い込まれるように納まった それは、嵯峨さん自身が僕に手渡した物。
  その金属製の棒が、手にされるや否や、先端が開き、ビームの刃が発生する。
  「むっ」
  偽物が気付き、身構えるよりも速く、嵯峨さんの剣閃が偽物を捉えていた。
  空気を圧する音が耳に届く頃には、既に刃は消えていた。
  袈裟けさ斬りにされた偽物が、がくりと体勢を崩し、壁に寄り掛かる。
  「まだ このような手を残していようとは。小賢しい」
  腰の端で、辛うじて上半身と下半身が繋がっては いたが、ほぼ分断された偽物。
  だがそれでも、その言葉に、やはり感情は見えない。
  いや、ここまで来れば もう、疑いようも無い。
  この偽物には、“感情というものが無い”のだろう。
  そして、生物でも、無い。
  「こンで もう、動けまい。色々、聞かせて貰おうか?」
  「笑止。ならば、貴様の身体を貰うまでの事」
  「うオっ!? ぐうッ!」
  損壊した身体をき散らしながら、嵯峨さんに組み付いた偽物が、溶けるように融合していく。
  「ぐ、ぬ、ぉぉお」
  「抵抗するか」
  動きは ほとんど無かったが、嵯峨さんの表情は苦悶くもんのそれだった。
  気付くと、嵯峨さんの手から落ちたのか、ビーム・ブレードが、からからと音を立てて、僕の足元へ転がって戻って来た。
  意識するより先に、拾い上げ、構える。
  「!? お、おいレイジ! お前 何する気だ!?」
  「う!?」
  志賀さんの言葉に、我に返る。
  そうだ。
  このまま斬り掛かったら、十中八九、嵯峨さんまで斬ってしまう。
  何より、剣を扱った事も無い僕が振るうのならば、尚更だ。
  (構わん! 俺ごと やれっ、レイジ!)
  (そんな!?)
  (忘れたのか! 俺はコアが無事なら何とかなる! 完全に融合されたら、それこそ終わりだ!!)
  「ッ!! うあああッ!」
  嵯峨さんの思惟に押され、意を決し、僕は両手で握り締めたビーム・ブレードを振り下ろした。
  インパクトの瞬間に神経を集中し、ほんの一瞬スイッチを押して、ビームを発生させる。
  刹那、ある筈のない手応えが、両手に伝わり――
  「ガ、っ!?」
  「ぐぁ!」
  踏み込み過ぎたかも知れない、と思ったが、事ここに至っては、運を天に任せる段階だった。
  ごとり、ごとり、と重い物が二度、落ちた音に顔を上げると……。
  偽物の方は、頭部を綺麗に真っ二つにしていた。
  嵯峨さんは……左腕が無かった。
  床に目を落とすと、確かに、火花を散らす頭半分と、左腕が転がっていた。
  「よくやった、レイジ! お手柄だ……ッ!」
  「グオおぉ……! おのレ……我ヲ滅すレバ、何が起コルカ、判ッテイるノカ」
  「馬鹿野郎、そりゃ こっちの台詞だろうが。俺が消滅すりゃ、地球も消えちまうんだぞ」
  「グ、グ、貴様ノ罪ハ、ソレダケ重イ、トいウ、事……ダ」
  偽物の目から光が消え、頭部の残った半分も、嵯峨さんの背から床へ滑り落ち、ほとんどの部分は、灰の様に吹き消えた。
  後に残っていたのは、作業支援マシンの頭部に据えられていた、あのどころ不明の金属球体、だった。
  「レイジ? おい、どうした!」
  いつの間にか、僕は床に へたり込んでいる。
  荒い呼吸が治まらない。
  左肩を押さえた嵯峨さんが僕の方を向いたようだったが、そちらへ振り返る事も、言葉を発する事も出来ない。
  怪我を したとかじゃないんだ。
  ただ、単に――腰が抜けてしまった。

  「あれを初めて見たのは――確か、まだ太陽系に居た頃の筈です」
  「そんな前から潜入されてた、って事か」
  「するってぇと、トラブルの大半は奴の仕業しわざ……なんだろうな。全部が全部とは言い切れんが」
  だいぶ時間を掛けて、ようやく僕は落ち着く。
  それを待っていてくれた嵯峨さん、志賀さんと、持ち寄った情報のすりあわせが行われた。
  まさか、あんな“物”がスパイ行為を働くなどと、誰が考えるだろう。
  しかし現実問題として、敵のスパイを手伝いとして雇い入れるような、間の抜けた行動をしてしまったのは、事実だった。
  「……済んだ事だ。今更 言っても始まらん」
  重い溜め息をく嵯峨さん。
  その内に秘められたものは、余りにも重すぎる事実だ。
  「しかし、そんなコトになってたとはなあ。驚いたぜ? レイジ、いきなり斬り付けちまうんだからよう」
  僕の異能力の話を聞き、ようやく合点がてんのいった志賀さんも、溜め息を吐く。
  「す、すいません……。突飛な話ですし、言い出すタイミングが掴めなくて」
  「まあ、なぁ。話が繋がったから、それは いいけどさ」
  肩をすくめて、苦笑いで済ませてくれる志賀さん。
  「でも、嵯峨さんの……腕が」
  斬り落としてしまった嵯峨さんの左腕は、最終的にはフレームを残して、マシンセルは飛散してしまった。
  胴側の切り口は、元々何も無かったかのような、磨いた鏡のような、真ったいらだった。
  「そうだぜ、おっさん。真っ二つに なってたら、どうすんだよ」
  「そんなモン、こっちで調整してやりゃ済む話よ。もっとも、ぎりぎりの調整で、腕一本やられたがなぁ」
  またそんな、事も無げに。
  「しかし、レイジ。お前 本当に剣とか扱った事、ぇのか? ありゃあ、シロウトの振りにゃ見えなかったぞ」
  「ええ? 本当ですよ。刃物のたぐいは……そりゃあ、たまには料理は してましたけど」
  「そうか……スジは いいと思うぞ。名のある師匠に付けば、達人級に化ける可能性が ありそうだぜ」
  「そうなんですか?」
  「お前ねぇ……。100年、剣ばっか振りたくってた俺が言ってんのに、疑うかぁ?」
  我が事とはいえ、そこまで持ち上げられると、さすがにうたぐってしまう。
  うーん……。
  「それで――おっさんの方は、どうしてたんだよ? こっちは、そりゃあ大変だったんだぜ」
  「すっ飛ばされて、危うくM13この銀河からすら飛び出しかけてたんだがな……。ガインの奴に、救われたんだよ」

  嵯峨が言うには――
  一時的な転移で、周囲に影響を及ぼさない空間位置へ飛んだまでは良かったが、重力弾の影響をインパクト・ドライブの力場に巻き込む事で抑えていた為、コスモ・シャドウには際限の無い加速が かかっていた。
  「くッ、マズったか!?」
  『制御フノウ、制御フノウ、制御フノウ』
  「判った、判ったから、お前も少しは気合で踏ん張れよ、ガイン!」
  同じ単語を繰り返していた人工知能ガインは、嵯峨の その非 合理的な一言で、何故か黙ってしまったという。
  実際、確かに制御は ほぼ不可能な状態だった。
  インパクト・ドライブをもってしても、完全には影響を殺す事は出来ておらず、コックピット内は激しく揺動していた。
  「……こりゃあ……」
  『軌道計算、シュウリョウ』
  覚悟を決めるしかないか。
  そう、呟きかけた嵯峨の耳に、場違いな合成音声が届く。
  「な、何? おい、ガイン!?」
  人工知能とは言っても、指示しても いない行動をガインが採るなど、無い筈だった。
  数秒の後、亜高速に達し、なおも加速を続ける機体コスモ・シャドウから、強引に射出されてしまう嵯峨。
  (う・お・お・おッ!?)
  どうやら計算していたのは、この為の軌道だった様で、程なく嵯峨は、ごく近くに存在した有人惑星に放り込まれる事となる。
  元より人ならざる身 ゆえに、大気圏突破も難――無く、とまでは行かなかったようだが、黒焦げに なりつつも、惑星に軟着陸したらしい。
  しかし、そこまでは良かったが、さすがの嵯峨でも、身一つでは惑星そこから移動する事は出来なかった。
  途方に暮れかけた嵯峨が、当ても無く歩き回った挙句あげく、発見したのは……失われたと思われていた、クエーサーホーンだった。
  背の低い木立こだちの中、機首から大地に突き刺さる格好ではあったが、目立った破損部分も見受けられず、差し当たっての稼動にも支障は無かった。
  だが、辺りを幾ら探しても、エルセイルの姿は無かったという。
  いかに優れた人工知能だとしても、まさか、ここまで事象を読んだ訳では無いだろう、と思ったが、或いは、創造主の想定を越えて進化していたのか、とも捉えられた。
  ともかくも足を得た嵯峨は、クエーサーホーンを駆って、帰還したのだった。

  この後、艦内くまなく検査が行われた。
  破壊工作のたぐいが疑われたからだ。
  偽物の言動と滞在時間から考えて、充分 可能性は あった。
  しかし、結局その痕跡すら無く、胸をで下ろす事となるのだが。

  “本物の”嵯峨が戻った事で、一つ、肩の荷を降ろしたG・サジタリアスの面々。
  だが、それは事態の好転を意味しなかった。
  反存在を、辛うじて撃退する事こそ出来たものの、嵯峨の中の力は、最早もはや 風前のともしびだった。
  嵯峨の力を増幅する事で成り立っていた防御システム群は、つまり、変わらず使用不能のままだったのである。
  ディメンジョン・クリスタルが使えないという事は、取りも直さず、HFドライブも使用不可能という事だ。
  嵯峨が戻っても、まだ艦を降りた100名近い者達が、連合領の どこかに居る。
  彼らを残して逃げる訳には行かないとは言え、一の望みすらも、絶たれたかに見えた。
  そんな折――
  ロンダルキア宙域、発電星系0005に、惑星改造拠点コロニア曳航えいこうされるという情報を掴む。
  実際に内部を見たのは嵯峨と御堂だけだったが、それは、何万人という人間が長期に亘り居住できるだけのキャパシティを有していた。
  そして最も重要な点は、それに付随ふずいし、数多くの人間が移送されるらしい、という事だった。
  時間の経過と共に、ウォンの伝手つても機能しなくなりつつあり、情報の真偽や詳細について、知る事は出来なかった。
  「どうしたもんかね」
  椅子の一つを中央に向け座り、嵯峨が呟くように言う。
  その左腕は、修復されては いない。
  どうやら、自分自身についてすら、自己修復 出来ぬ程に、力を弱めてしまったようだった。
  「移送されるという中に、G・サジタリアスふねに乗っていた人達が居るんだろうか?」
  「或イは、罠、とイう可能性も捨て切レませンよ」
  「俺らを呼び寄せる罠、って事かい?」
  「ええ」
  「そりゃまあ、追っかけ回すよりゃ、おびき出しといて、待ちせた方が楽だろうからな」
  「だけど――」
  「ああ。どちらにせよ、ここでくすぶっていても状況は動かん。行くしかあるまい」
  「お役に立てず、申し訳ない」
  「ウォンのせいじゃねえって! な、優輝、そうだろ?」
  すまなそうにするウォンを、慌ててフォローする志賀。
  「え? うん、そうだよウォンさん。むしろ助かってるぐらいですから」
  「……ほーぅ?」
  「な、なんだよ、おっさん?」
  「いンや? そうかそうか……良い事だ」
  「うう」
  以前は散々、レイジを からかっていた志賀の事だ。
  ある意味、因果応報というものであった。
  「優輝、ロンダルキアまでは俺が操艦する。お前は休め」
  「判った」
  かなり疲労が溜まっていたのだろう、若干 覚束おぼつかぬ足取りで、優輝は艦橋を出て行った。
  「嵯峨さン、片腕で大丈夫なのでスか?」
  「なァに、戦闘機動なら ともかく、一直線に ぶっ飛ばすだけなら問題ねぇさ。……ん?」
  マセラトゥに請け合い、制御卓コンソールに目を落とした嵯峨は、何かに気付いた。
  ここ暫く、掛かりきりで、優輝が何をしていたのかを知った嵯峨。
  (こいつは……。優輝、やるようになったな)
  改めて、発進操作に取り掛かる。
  メイン エンジンが咆哮ほうこうし、艦が動き出す。
  白銀の翼は飛翔する。一路、ロンダルキア宙域へと。


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