PHASE_3 「戦いの終わり」
己の総てを知り得る人間など、居るのだろうか?
生きる事とは、己の中に眠る能力(との対話なのではないか。
それを忘れた時、人は獣に堕(ちるのだろう。
*
ロンダルキア宙域へ到達したG・サジタリアス。
惑星改造拠点(は既に曳航(を済ませ、小惑星帯を遠目に臨(む位置へ設置されていた。
「静かだな……」
それは音の話ではなく、この宙域の状況の事だ。
見渡す限り、コロニア以外に人工物は無く、レーダーにも それらしい反応は無かった。
「罠って訳じゃなかったんかな?」
「まだ判らないよ。小惑星帯がある。あの辺りに隠れているのかも」
「さて。どうやって中の様子を探ったもんかな」
「直接 侵入するしか無いのかな」
「そうなるか。仕方ねぇ、ステルス・ホーン、使うしか無さそうだな。行って来(らぁ」
「そんな状態(で!? 僕が行く!」
「行って戻るだけなら ともかく、中に侵入して様子を見て来なけりゃならんのだぞ? お前に隠密行動が出来るのか?」
「ッ」
「て、訳だ。無理は しねぇよ。合図したら回収、頼むぞ?」
合図を発信する為の専用コントローラを、振ってみせる。
格納庫へ降りた嵯峨は、上段を見回す。
2号機と6号機のブースには何も無く、並ぶのはレイジの使う3号機、シャマの使う4号機、シモンの使う5号機、そして、クエーサーホーンとなった1号機。
(……ま、ぶっ壊しに行く訳じゃねぇしな。レイジ、借りるぜ)
複座型コックピットのままの3号機に乗り込み、ステルス・モジュールへ換装する。
艦を発進した3号機は、ステルス機能をオンにし、一直線にコロニアを目指した。
(何も――居ねぇな。てっきり誘(き出す罠だとばかり思っていたが……杞憂(だったか?)
モニターにもレーダーにも、これといった変化は無い。
そうこうする内、コロニアに到達した嵯峨は、桟橋(を避け、メンテナンス用と思(しき出入口から侵入した。
(侵入したは良いが、どこから手を付けるべきかね)
メンテナンス用通路から内部通路に出た嵯峨は、失われた左腕の付け根に取り付けられた、何かの機器を操作する。
サーチ・モジュールの余剰部品(から必要な物を見繕(い、簡易的に構築された それは、複合センサーとも呼べるものだった。
(……かなりの数の人間が居るのは確か、か。ばれずに覗ける場所が ありゃあ いいんだがな)
進行経路を模索していた嵯峨の耳に、近付いて来る話し声が飛び込む。
(!)
通路は概(ね、壁、天井、床に至るまで ほぼ凹凸(が無くフラットであり、しかも一直線に伸びている。
つまり、隠れる場所など無い。
止む無く一旦(、出て来たばかりの床のメンテナンス用通路へ身を翻(す嵯峨。
飛び込む瞬間、小さく乾いた音がしたが、気にしている暇は無かった。
嵯峨が息を潜める頭上で、話し声の主(達が、何故か立ち止まる気配があった。
(まずい……か!?)
さては出入口の蓋を きっちり閉め損ねたか、とも思ったものの、一見して蓋は正しく閉じているようにしか見えなかった。
ひやり、としたのも一瞬、何事も無かったように、足音は去って行った。
充分に時間を置き、気配を窺(った後、改めて通路へ戻った嵯峨は、足音が去った方向と逆へ駆け出す。
一定間隔で現れる直行通路を3つ過ぎ越し、4つ目の十字路へ差し掛かった所で、右手から大勢の人間が ざわついているような気配を察知する。
右へ折れると、その先は空間が広がっているようだった。
慎重に覗き込んでみると、広場のような場所で、重装備の歩兵達が めいめい寛(いでいた。
物陰から見える範囲だけでも、歩兵の数は相当数に上(る。
とはいえ、少なくとも まだ、潜入が ばれた訳ではないようだった。
(チィッ、こりゃあ……手の込んだ罠だな。間違っても合図出さんように せんと――!?)
左腕のセンサーの一部に手を遣(った嵯峨は、瞬間、ゾッとする。
(無ぇ……!?)
複合センサー群の隅に据(え付けておいた、合図を発信する為のコントローラが、無くなっていた。
(! まさか、あの時の音――)
足音に押し込まれるように戻ったメンテナンス用通路。
あの瞬間に聞こえた“音”。
立ち止まった足音。
記憶を辿(って行けば行くほど、それが意味するものが明確になる。
(やっべぇ!!)
もはや、ここに至っては、後ろの兵士達を気にしている場合ではなかった。
来た道を全速力でステルス・ホーンまで戻った嵯峨だったが、コロニアの外へ出た瞬間、手遅れだと悟る事となる。
真正面 直上(に、G・サジタリアスが停泊していたのである。
どうやら、相当前に合図は出されてしまっていたようだ。
それが事故に近いものなのか、意図的な ものなのかは、判断のしようも なかったが。
恐らく、G・サジタリアスの側では事情が汲(み取れては いない。
可及(的速(やかに、艦へ戻る必要があった。
だが、この時 既(に、嵯峨からは見えないコロニアの裏側で、帝国と連合の合同艦隊は、確実に数を増やしつつあった。
*
“白鳥が鳥籠(に入った”
リー、そしてスゴウは、第二艦隊 旗艦の艦橋で、その報(を受け取る。
それは、G・サジタリアスが罠に掛かったという報(せだ。
これを もって、帝国と連合の合同軍による、最終作戦は発動された。
「まさか、本当に来るとは……」
「いや、彼等ならば、来ると思っていたよ。スゴウさんだって、そう思ってたんじゃないのかい?」
「いえ、私は――」
「とにかく、問題は ここからだ。さて、君達は、どう出るのかな?」
今は まだ遠く、望遠映像に豆粒程度に しか映っていないG・サジタリアスを、鋭い視線で貫くリー。
「反撃、して来るでしょうか?」
「どうだろうね? 追い込まれれば或いは、とも思うけど、初(志(貫徹(しそうな気もするし」
曖昧(な表現に留めたリーだったが、スゴウには、答えが出ているのではないかと映った。
どちらに転ぶとしても、陣容は万全だった。
合同軍の布陣は、超高速航法にて後方より続々と到着する艦艇群によって、完成しつつあった。
最終的に選択されたのは、物量に頼んだ、人海戦術だった。
G・サジタリアスの戦闘力を鑑(み、包囲陣は二重三重に張られていた。
よしんば包囲の網を突き破ろうとしても、そう簡単に通しは しないだろう。
何より、彼らは自分達から仕掛けては来ない。
その様は まさに、網に追い込まれる魚、そのものであった。
案の定、鼠(一匹通さぬ構えの合同軍を かわす為、布陣の薄い方向へと舵(を切るG・サジタリアス。
だが それこそ、想定されたものだった。
一艦毎(の性能で圧倒的に劣(る事は、覆(しようのない事実。
故に、包囲が完全に完成しない内に突破行動に出られる事が、最大の懸念(材料であった。
G・サジタリアスが、恒星へ近付いていく。
同時に、半球形に取り囲んだ合同軍が、後を追う。
この間にも、周辺星系に駐留していた艦艇群が移動を終え、半球形の縁(を筒状に引き延ばす形で、G・サジタリアスを追い掛ける。
発電星系0005の恒星――ブラック ホールと主系列星の連星――近傍へと、追い込まれるG・サジタリアス。
クーゲル、ラクサスの率いる帝国軍 派遣艦隊を含む、連合全軍を挙げての作戦は、大詰めを迎えていた。
*
一方、嵯峨の帰還直後へ遡(った、G・サジタリアスでは――
「嵯峨さン、心配シまシたよ。レーダーに映らなイどころか、目視も出来なくなってシまうとは思いませンでシた」
「すまんな、マセラトゥ。優輝すまねぇ、やられた。ガセだったようだ。急いで ここを離れるぞ」
艦橋に入って来た嵯峨に気付き、マセラトゥが声を掛ける。
それに答え、矢継(ぎ早(に優輝へ促(す嵯峨。
「じゃあ、あの合図は?」
「落としたコントローラを拾われちまったらしい。とんだミスだ」
問いつつ、艦を操る優輝。
大きく向きを変え、天頂方向を指向したG・サジタリアス。
だが、そのまま発進する事は出来なかった。
「何ッ!? 何時(の間に――」
「こレは……! 全方位より、艦隊と思シき反応!」
正面には、雲霞(の如(く、合同軍艦隊が迫りつつあった。
「正面だけじゃなく!?」
レーダーには、もはや数える気にも ならない程の光点が、中央のG・サジタリアスを示す光点を囲んでいた。
「! 恒星の方向に、包囲の切れ目がありまス!」
「……明らかに……罠、か。くそ、策を弄する(のは苦手だからな」
包囲の薄い部分を目指し、全速航行に入ろうとするG・サジタリアスだったが、その都度、不自然な までに小惑星に進路を阻(まれた。
右へ左へ、上へ下へと、小惑星を避ける度(、当然の如く速度は落ちる。
「これも罠の一部だってのか? どこまで用意周到(なんだよ!」
「チィ……この策を考えた奴ァ、今頃“してやったり”ってな顔(してやがるんだろうな」
艦橋すれすれを通り過ぎる小惑星に、悪態を吐く志賀と嵯峨。
その後、状況は嵯峨の予測した通りに推移し、G・サジタリアスは重(囲(に陥(る。
正面には、ブラック ホールと、それを取り巻くアクリーション・ディスクが輝いていた。
「……優輝、回頭180度、ディスクの上に乗っかっちまえ」
「了解」
「フラッパーで出る。出来る限り防いで みるさ」
「俺も行きます」
「俺だって、出来る事ぐらいあるぜ!」
嵯峨、志賀がコスモ・フラッパーで、シャマがシザー・ホーンで出撃する。
『志賀、シャマ。艦から離れるなよ。出過ぎて やられちまったら何にも なんねぇからな』
『おう!』
『判ってます。無理は しません』
「副砲はチャフ弾、デコイ弾 連続発射。その他は、実体弾を迎撃。ミサイルにはAMMを混ぜて……。これで、少しは もたせられればいいけど」
各砲座に目標を入力(する優輝。
目標を敵弾に絞(り、絶望的な防衛戦は開始された。
しかし、兵装群の連続稼動は、想定以上に困難を極めた。
ただでさえ、シュワルツシルト半径を背に置く状況。
ブラック ホールの重力に抗する為、メイン エンジンは限界近くで稼動していた。
兵装群にエネルギーを回す余裕は、本来無い程なのだ。
従って、連射速度、威力、共に著(しく低下していた。
直撃弾を受ける事なく やり過ごせたのは、戦闘開始から僅(かに数分間だけだった。
「くぅぅっ……。思ったより厳しい、ね」
慣性制御では相殺(し切れない程の揺動に耐える、優輝達。
艦下方のアクリーション・ディスクと、後方のブラック ホールによって、それなりに範囲を狭(めているとはいえ、合同軍の波状攻撃は熾烈(を極めた。
兵装群による相殺が追い付かなければ、当然 艦体に直撃する道理。
だが現状で、機能している防御システムは、超伝導バリアのみ。
デブリ程度ならば ともかく、運動エネルギーの桁(が違う光学兵器に対しては、効果は薄かった。
艦載機で出た嵯峨達も、良く防いでいる方だったが、余りにも手数が違い過ぎた。
シザー・ホーンが稼動限界を迎え、シャマが帰艦する頃には、志賀も機体を中破させ、帰還に追い込まれていた。
最後まで粘っていた嵯峨だったが、機体がコスモ・フラッパーでは、コスモ・シャドウのようには いかず、大破した機体を放棄して帰艦していた。
「まさに故事そのままの“四(面(楚(歌(”、だな」
左右上下、どちらを振り仰(いでも、視界は合同軍の艦艇で埋め尽くされていた。
満身創痍(のG・サジタリアスを見てか、合同軍からの砲火は、今は止んでいた。
HFドライブも防御システムも使えず、兵装群は その ほとんどが沈黙した。
後は降伏し、投降するか、抗戦し、撃沈されるか。
その二択に絞(られたかに見えた。
そして、その通信は……来た。
『私は合同軍 総司令、グエン・エサムだ。G・サジタリアスの諸君に通告する――』
嵯峨は、通信を艦内全てにも回送させてから、聞き入った。
それは勝利宣言とも取れる、堂々たる最後通告であった。
「……ここまで、だな」
「嵯峨さン!?」
「判った。輸送機を出す。こっちの乗員を引き取ってくれ」
『了解した。悪い様には せん』
「聞いた通りだ。先方の気が変わるかも知れんからな。余り時間は掛けられん。荷物は最小限にして、急いで格納庫に集まってくれ」
外部との通信が切れるや否や、艦内に指向させた通信モニタに、呟く嵯峨。
通信を完全に切って振り返ると、志賀、そして優輝は、動く気配も見せず鎮座していた。
「おら。お前らも、とっとと荷物まとめて格納庫に行きやがれ」
「な!? お、おっさん! 俺にも降りろってのか!?」
「まさか、僕に言ってる訳じゃないよね?」
矛先(が自分に向くとは、露(ほども考えていなかったらしい志賀に、訝(しげな視線を返してくる優輝。
「馬鹿抜かせ。全員降りねぇで どうする。連中が納得すると――」
「俺は降りねぇ!」
「僕は降りないよ」
嵯峨の言葉を遮(って、二人は同時に もの言う。
「お、お前ら なァ――」
「どうせ――僕らだけ送り出しておいて、一人で行く気だったんだろ?」
「ッ!?」
「ふふ。お見通し、ですわね」
「おじ様、私も降りませんから!」
「私は残らせて頂きます。もう……戻る場所も ありませんので」
「優子……。ぬ、うう。お前ら、判ってんのか? 引き返せねぇ道行なんだぞ」
優子、奈美、ウォンが、揃って艦橋へ入って来る。
言っては みたものの、そこに集(った者達の表情を見れば、答えは判り切っていた。
「……ええい、くそッ。勝手に しやがれ!」
「やだ、おじ様 自己完結してる」
吹き出した奈美に釣られて、場違いな和(みの空間が生まれる。
「今更 置いて行くなんて、無しだよ、父さん」
「ったく、馬鹿タレ共(めぇぇ」
「ブーたれても駄目だぜ、おっさん」
蛸(さながらに むくれる嵯峨に、にやりと笑って釘を刺す志賀なのだった。
「……ここで、俺と この艦(が消えりゃ、何とか丸く収まるだろう。そう考えて、お前らを全員 降ろそうと思ってたのによ……。もう、後戻りは出来ねぇぜ?」
嵯峨が、艦に残ろうとする者達の顔を、順に見据(える。
「信じています。あなた」
「おじ様の事、信じてるから」
全幅の信頼を寄せる、優子と奈美。
「どうなっても構わねえさ。おっさん、やってくれ!」
「私も……貴方に賭けよう」
帰るべき場所を持たない、志賀とウォン。
『僕は そもそも、艦(の一部だからね』
またしても 何時の間にやら現れ、腕組みをしたソウマは、その力の如く飄々(としている。
最後に、優輝が意を決する。
「……父さん、行こう」
「おう……!」
*
美緒さんと連れ立って格納庫に入った僕は、ホーン・ド・コア3号機の前で足を止める。
何度となく乗り、色々な事が あった機体だ。
愛着を感じても、無理は ないだろう。
「……レイジ」
「ああ、ごめん。……行こうか」
僕は どんな顔をしていただろう。
裾(を引いて促(す美緒さんに答えて、その場を離れる。
下段へ降り、デリバリー・ライナーに乗り込む。
既に そこには、シャマと白長(滝(さん、シモンさんやマセラトゥさん他、数人が居た。
「遅いね……」
暫く待っても来る様子の無い、嵯峨さん達。
けれど、その言葉を契機としたかの様に、搭乗口の扉(が勝手に閉まり始めた。
「!?」
立ち上がって駆け寄った時には、完全に閉じて しまっていた。
しかも、開けようとしても開かない。
乗り込んでいた他の人達も、何事かと腰を浮かしかけた その時、操縦席には誰も居ない筈なのに、機体が動き出した感覚が伝わって来た。
「な、何で!?」
操縦席に駆け込み、勝手に動く操縦桿(を握るが、操作に応じる気配は無い。
「レイジ? まだ嵯峨さん達が乗ってないぞ。何故 発進したんだ?」
「僕じゃないんだ! 勝手に動いてるんだよ!」
「何!?」
僕を押し退ける勢いで入れ替わったシャマが操縦桿を引くが、やはり、びくともしないようだった。
「く……どうなってるんだ!?」
(嵯峨さん!? 機体が勝手に動き出してるんですけど!?)
焦り過ぎていた僕は、ようやく思い出し、意識を集中して、呼び掛けてみた。
少しの間、返事は無かった。
だが、やがて――
(心配すんな。こっちから遠隔操縦(してるだけだ)
(嵯峨さんっ!? 遠隔、って……まだ嵯峨さんや、先輩達が乗ってないじゃないですか!)
(俺達は、行かん)
(ええっ!?)
(俺達は、この件にケリを付ける。騙(す みてぇに なっちまったが……。だが艦を降りた連中は、探さなけりゃならん。同時に事を成すのは無理だ。お前は、連中を頼む)
(嵯峨さん……)
(どうにもならんようなら、クーゲルを頼れ。奴なら きっと、助けに なってくれる)
嵯峨さん達が何をしようとしているのか、おぼろげに察(してしまった僕は、言葉を継(ぐ事が出来なかった。
(すまねぇな、レイジ。お前に全部、押し付ける様なカッコに なっちまってよ……)
(いえ……。必ず、皆を見つけて、地球に帰ります。だから――嵯峨さん達も、必ず帰って来て下さい!)
その叫びは、嵯峨さんに届いた筈だった。
だが、答えは……返って来なかった。
*
艦(を降りた者達が、後方へ送られるのを見守るかのように、沈黙していた白銀の翼、G・サジタリアス。
それが、再び身動(ぎを始める。
姿勢制御用噴射口(が火を吹き、ゆっくりと、艦体が その向きを変えて行く。
「む……っ?」
合同軍に、緊張が走る。
数万の兵士たちの見つめる中、G・サジタリアスが艦首を向けたのは――ブラック ホール。
「何を――まさか?」
艦尾の巨大なブルーメタルの刃(、インパクト・ドライブが、仄(かな発光を始める。
そして、一瞬の後。
微(かな残像を残し、白銀の翼は、ブラック ホールへ向け死のダイブを敢行したのだった。
光すら脱出不可能な その超重力によって、その残像も すぐに掻き消えた。
「……ただ“花(”は散るらむ、か」
G・サジタリアスの消えた空間に視線を投げ掛け、クーゲルが呟く。
「何か?」
「いや、何でもない。索敵を続けよ」
呼び掛けられたのかと勘違いし、振り仰いで来た部下に、それだけ命じる。
「ハッ!」
何が起きたのか、理解の追い付かない者達の困惑は沈黙となり、それは やがて、どよめきへと変わっていった。